1. 最低賃金改定の概要

厚生労働省の発表によれば、令和7年度（2025年度）地域別最低賃金の全国加重平均額は **1,121円** に達しました。前年度の1,055円から66円の引き上げであり、昭和53年度に目安制度が始まって以降、最大の改定幅となっています。

また、47都道府県すべてにおいて最低賃金が時給1,000円を超える水準に達し、地域間の賃金格差縮小にも動きがみえています。

2. 引き上げの背景・要因

最低賃金が過去最高となった背景には、以下の複数の要因があります。

2.1 物価上昇・コスト増

円安・原材料価格高騰・エネルギーコスト増などにより、生活コストが上昇。これに対して賃金の底上げを図る動きが政府内でも強まっており、最低賃金引き上げが政策的にも重要な位置づけとなっています。

2.2 人手不足・働き手確保

特にサービス業・飲食業・小売業などで慢性的な人手不足が続いており、賃金上昇を通じた働き手確保・求人魅力向上の観点も引き上げ要因となっています。

2.3 政策目標と国内賃金底上げの流れ

「全国平均時給1,500円水準」などの長期目標が政府の政策課題となっており、最低賃金引き上げはそのロードマップの一環とされています。

3. 働く人にとってのメリットと留意点

3.1 メリット

• 時給が上がることで、パート・アルバイト・非正規雇用者の収入改善につながる可能性
• 地域間格差の改善によって、地方でも賃金底上げの恩恵を受ける機会が増える
• 賃金引き上げが給与交渉や労働条件改善のきっかけとなる

3.2 留意点・リスク

ただし、注意すべき観点もあります。 一つは、時給が上がる一方で、企業側が残業削減・シフト短縮・労働時間減少といった対応を取る可能性があることです。 また、手取りが増えても社会保険料・税負担の増加により手元に残る金額がそれほど変わらない場合もあります。 労働時間・勤務体系・雇用契約の条件を含め、収入構造全体で影響を見直すことが重要です。

4. 企業・事業主にとっての影響と対応策

4.1 影響

人件費が上昇することは、特に人件費割合が高い中小企業・小規模事業者にとって大きな負担となります。また、時給ベースの契約労働者・パート・アルバイトの給与テーブル見直しが求められ、雇用契約・シフト体制の再検討が必要です。

4.2 対応策

• 給与テーブル・時給の下限を改定し、新規採用・既存スタッフの処遇を見直す
• 生産性向上・業務効率化を通じて人件費増加を吸収
• 助成金・補助金（賃上げ支援策）を活用して段階的に底上げを図る
• 固定給・月給制の社員の時給換算・契約見直しも含めて総合的に検討する

5. 今後の課題と展望

最低賃金の引き上げが継続すれば、生活水準の底上げや働き方改革の一環として期待されます。例えば、さらなる賃金底上げ・地域格差縮小・非正規雇用の待遇改善などです。

一方で、価格転嫁の難しさ・中小企業の経営負担・自動化・省人化による雇用の構造変化といった課題もあります。賃上げだけでなく「働き方・生産性・収益構造」の見直しが不可欠です。

6. ケーススタディ：地方飲食店の対応例

例えば、ある地方都市の飲食店が時給900円台から1,000円台への移行を迫られ、10月以降時給1,100円以上を想定して給与水準を改定した実例があります。 この店舗では、シフト構成の見直し・ピーク時間帯の待遇改善・メニュー価格の一部改定を行い、人件費上昇を抑えながらスタッフ募集力を強化する施策を実施しました。

このように、最低賃金改定をきっかけに「収益構造・人材確保・働き方改善」を同時に進める企業の動きが今後増えると見込まれます。

まとめ

• 2025年度の全国加重平均最低賃金は時給1,121円。昨年度比66円の上昇で、過去最大の引き上げ幅を記録。

• 背景には物価上昇・人手不足・賃金底上げ政策などが複合的に作用。

• 労働者には収入改善の期待がある一方、労働時間・雇用契約条件などの見直しも必要。

• 企業には人件費の増加・契約・シフト・給与テーブルの見直しが求められ、助成金や生産性向上がカギとなる。

• 今後は、さらに賃金底上げ・働き方改革・地域格差縮小が進むとともに、企業・働き手双方で新たな対応が必要になる。

参考文献・引用

1. 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました」 （2025年9月5日）

2. 大和総研「2025年度の最低賃金は1,100円超へ」

3. 内閣官房「最低賃金の引上げに係る支援策について」

4. ジョブメドレー「2025年版全国最低賃金一覧＆全国ランキング」

5. 朝日新聞デジタル「2025年度地域別最低賃金、全国平均1,118円へ」