相続や高齢化の進行により、「売りたいのに売れない」「使いたくても使えない」不動産が全国で増えています。こうした不動産は近年**「問題不動産」**と呼ばれ、空き家問題や相続トラブル、地域の安全・景観悪化にもつながる社会課題となっています。
本記事では、問題不動産の定義、利活用や売却を阻む具体的要因、放置リスク、そして現実的な対処法を、ファイナンシャルプランナー視点で解説します。
問題不動産とは?利活用や売却を阻む原因と対策をわかりやすく解説
「問題不動産」とは何か
「問題不動産」とは、法的・物理的・経済的・心理的な要因により、 利活用や売却が著しく困難になっている不動産を指す通称です。 法律上の正式用語ではありませんが、国土交通省や自治体の空き家対策文脈で広く用いられています。
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、日本の空き家数は 約900万戸(住宅全体の13.8%)に達しており、 今後も増加が見込まれています。
問題不動産が生まれる主な背景
1. 相続による所有者不明・共有状態
相続登記が行われないまま世代交代を繰り返すことで、 所有者が不明、または多数の相続人による共有状態となり、 売却や活用に全員の同意が必要になるケースが増えています。
法務省によると、所有者不明土地は全国で 九州本島を上回る面積に及ぶと推計されています。
2. 建物の老朽化・再建築不可
1981年以前の旧耐震基準住宅や、接道義務(建築基準法第43条)を満たさない土地では、 建て替えができない「再建築不可物件」となる場合があります。
こうした不動産は市場価値が著しく下がり、金融機関の融資も受けにくくなります。
3. 立地条件の悪化
人口減少や高齢化が進む地方では、
- 公共交通の廃止
- 商業施設・医療機関の撤退
- 生活インフラの縮小
などにより、不動産としての需要が消失するケースが少なくありません。
4. 心理的瑕疵・環境要因
事故物件、近隣トラブル、騒音・悪臭、土砂災害警戒区域などは、 法律上問題がなくても購入希望者が敬遠しやすく、 売却価格や成約率に大きな影響を与えます。
問題不動産を放置するリスク
1. 維持費・税金の負担
活用していなくても、不動産には以下のコストが発生します。
- 固定資産税・都市計画税
- 修繕費・草木管理費
- 火災保険・管理委託費
2. 特定空家指定による税負担増
空家等対策特別措置法により「特定空家」に指定されると、 固定資産税の住宅用地特例(最大1/6軽減)が解除され、 税額が最大6倍になる可能性があります。
3. 相続トラブルの長期化
問題不動産は「誰も使わないが、誰も手放したくない」状態に陥りやすく、 相続人間の対立を長期化させる原因となります。
利活用や売却を阻む具体的要因
1. 権利関係が整理されていない
登記名義が被相続人のまま、または共有者が多数いる場合、 売却には全員の同意が必要です。
2. 市場ニーズとの不一致
「広すぎる」「古すぎる」「用途が限定される」不動産は、 現代の住宅ニーズと合わず、買い手がつきにくくなります。
3. 解体費・造成費の問題
老朽建物の解体費用は木造で100万〜300万円程度が一般的で、 売却価格を上回る場合、経済合理性が失われます。
問題不動産への現実的な対処法
1. 早期の相続登記・権利整理
2024年から相続登記は義務化されました(不動産登記法改正)。 まずは名義整理が第一歩です。
2. 利活用の再検討
- 賃貸住宅・駐車場
- 事業用貸地
- 自治体への寄附
3. 専門業者への売却
一般市場で売れない場合、 問題不動産専門の買取業者や空き家再生事業者を活用する選択肢もあります。
4. 相続放棄・相続土地国庫帰属制度
2023年開始の「相続土地国庫帰属制度」を利用すれば、 一定要件のもと国に土地を引き取ってもらうことも可能です。
問題不動産は「早めの判断」が最大の対策
問題不動産は時間の経過とともに、 価値が下がり、関係者が増え、解決が難しくなります。
生前からの対策や、相続直後の迅速な判断が、 負担とトラブルを最小限に抑える鍵となります。
まとめ
問題不動産とは、利活用や売却を阻む要因を抱えた不動産であり、相続・老朽化・立地悪化などを背景に増加しています。放置すると税負担やトラブルが拡大するため、早期の権利整理と現実的な選択が重要です。
相続登記、利活用の再検討、専門家への相談などを通じて、「負動産」になる前に対策を講じることが、家族と資産を守る第一歩となります。
参考文献・引用
総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
国土交通省「空家等対策特別措置法の概要」
法務省「所有者不明土地問題について」
国土交通省 国土審議会「所有者不明土地対策」
法務省「相続登記の義務化について」
国土交通省「相続土地国庫帰属制度の概要」


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